りんごが噛めないこどもたち

はじめに
りんごの噛めないこどもたち
コロナ禍よりも前から起きていた出来事なのですが、コロナ禍以降にその傾向が顕著になってきました
２０１２年に岡山大学歯学部を卒業し、歯科医師になった私
歯科医師は技術研鑽の日々であるため、小児矯正を卒業後から興味がある先生はほとんどいません
どちらかというと、インプラント治療であったり、矯正治療といった華々しい治療技術の習得に精を出す傾向にあります
そんな私も漏れなく、そのような歯科医師の一人でした
顕微鏡を用いて精密な治療ができるように日々鍛錬を続けたものです
とある日ある歯科恐怖症の女の子と出会いました
今までの治療がトラウマとなってしまい、診療室に入ることすらできなくなってしまった女の子でした
髪の毛の長い８歳の女の子
診療室に入ることすらできないので、待合のキッズスペース等で信頼関係の構築から始めました
徐々に心を開いてくれた女の子
口の中を見せてもらうと残念ながら大量の虫歯がありました
診療室には入れるようになったものの、やはり怖がって治療はできません
私たち歯科医師が身につけた最先端医療は彼女にとっては無益だったのです
あの時の悲しさは今でも忘れません
むし歯を作ってしまった彼女が悪いのでしょうか？
保護者がもっと歯磨きをすれば良かったのでしょうか？
虫歯があるこどもは確かに減少しました
しかし、現状はほとんどのこどもは虫歯がなくなったものの
一人のこどもがたくさんの虫歯がある
そんな時代になったのです
彼女もそのようなこどもの一人でした
注意深く似たようなこどもたちを観察しているとある共通点に気づきました
なんとみんな歯並びが悪かったのです
しかも、虫歯ができる部位が一昔前のように前歯ではありません
奥歯にたくさんの虫歯を作っていたのです
フッ素入りの歯磨き粉の普及であったり、予防の意識が高まったおかげで虫歯、歯周病は減りました
その代わり、ファストフードのような軟食が増えたことにより
こどもたちの口腔機能は著しく低下してしまいました
口腔機能の低下と言われてもなかなかピンと来ないと思います
簡単に言うと「食べる力」が低下しているのです
りんごの噛めないこどもたちが増えているのです
皆さんのお子さんは丸ごとりんごをかじれますか？
写真は先ほどの女の子がかじったりんごの写真です
噛む力の低下により、りんごがかじれないのです
りんごだけではありません
お肉が食べられない
お肉が嫌いなわけではないのです
焼肉などの固形のお肉は硬くて食べられないけど、ハンバーグなどは大好きです
うどんが啜れない
うどんが本場の香川県のこどもでもうどんをパスタみたいに食べるこどもがいます
そんなこどもがたくさん増えました

そして残念なことに、コロナ禍がその流れをさらに加速させてしまったのです
コロナ禍は「新しい生活様式」ということで、マスクの時代になりました
皆さんもご存知のようにマスクをつけると呼吸が苦しいのです
性能が良いマスクほど呼吸が苦しい
マスクで鼻と口を覆った状態で正常な鼻呼吸は苦しいものです
だからこそ、多くの人がマスクを着用すると口呼吸になってしまいました
医療現場でN９５という高性能のマスクがあります
微細なウィルスを通さないため、本当に呼吸が苦しいのです
マスクをしても苦しさをあまり感じなかったと言われることもあります
でも、マスクから鼻を出している人を見かけたがあるはずです
もしかしたら、鼻をマスクから出して注意されたことがある人もいることでしょう
マスクを使用した状況だと鼻からの呼吸だけではしんどいからこそマスクから鼻を出すのです
これはこどもたちも同じです
マスクの下はずっと口がぽかんと開いてしまっていたのです
そのような状況が何年も続くと口周りの筋肉が発達しなくなります
食形態の変化のみならず、社会背景の変化もあり、こどもたちの環境は大きく変化したのです
その結果、口腔機能が低下してしまい、いわゆる口腔機能低下症のこどもが激増しました
それが歯並びを悪くする諸悪の根源だったのです
口の機能が低下したこどもはちゃんとした成長をすると思いますか？
りんごをかじれないこどもたち
この本を読んだ皆さんが、こども矯正は単に歯並びを治すだけじゃない
口の機能を取り戻すことによって、こどもたちの正しい成長を促すことができる
そんな治療が存在することを知ってもらえたら嬉しく思います